こころ 夏目漱石

漱石は、明治以前の日本の美意識であったり、倫理観を持っていた。一方で、急激に日本に入ってきた西欧文化を相対的に見ることができ、日本は必ず西欧文化のように発展しなければならないとは考えていなかった。西欧文化の考え方である自由と自意識の追求は、必ずしも幸せにつながらないということを予見していた。

 

こころの先生は、正にその象徴である。先生は、先生よりも明治以前の価値観に縛られている友達を出し抜いて妻と結婚したことに罪悪感を感じている。つまり、自分の幸せを個人として追求した結果、人を傷つけることで結局幸せになれないでいる。明治天皇の死とともに、先生は自殺する。その思いを、先生より若い世代である私に手紙で残し、将来の若い人に期待を残し、物語は終わる。

 

漱石は、西欧に必ずしも同一化する必要はなく、日本独自に発展していいじゃないという考えを持っていた。さらに明治時代から、現代の個人主義が行き過ぎた場合の孤独を予見していた。

 

今読んでも、日本語は古臭くない。漱石が作り出した日本語が今の日本語の骨格になっていることがよくわかる。西欧の主観と客体を軸とした日本語がこの頃に出来上がり、今も続いているのだ。

 

自由と個人主義漱石の生きていた明治時代より更に強くなり、現代人の孤独はより強くなっていっている。資本主義もそれを強化している。

 

こころは、話の時代背景は古くなっているが、テーマはより現代的になっている。

 

日本の小説を考える上で、最重要な作家であり、漱石が提示したテーマを処理しないと次世代にはいけないだろう。